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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (20)
 舞を、影が覆い、鈍い音が、した。
「大丈夫か、舞!」
 その声は、一瞬前、顔を思い浮かべた男の声だった。
「まさ……き……?」
「おうよ!」
 その声と共に左手に蒼い炎が点る。金属の盾が消えていくのを見て、男は下がる。
 舞は見上げた、ぼろぼろのジャケットに覆われた、厚く大きい背中を。その肩の上に、雅樹の笑みが現れた。
「なんとか間に合ったみたいだな」
「……遅いわよ」
「立ち上がれ……なさそうね、私にしがみついて」
 気づけば、側にリシュネもいた。舞はリシュネに抱きつき、リシュネは右手で背中を抱えて走り出す。
 駐車場の出口にトラックが止まっていた。だが、その周りに機動隊員が集まりつつある。
「雅樹!」
「こっち見るなよ!」
 雅樹は手に黄色い炎を点す。それは空よりも強い光を放ち、機動隊の足を止めた。
 リシュネはトラックの上に飛び上がり、舞を下ろす。雅樹も荷台の壁をよじ登り上がってくる。
 見渡せば、ビルの敷地を囲むように機動隊とその特殊車両が並んでいた。それはさながら青い壁のようだった。
「雅樹、お願い」
「ああ、任せと……おい」
 雅樹にしがみつくようにして、舞が体を起こす。
「これは私の役目だもの、このくらいは活躍させてよ」
 舞の笑顔に、雅樹はうなずいた。
「橙炎――」
 雅樹の背後に無数の炎が生まれ、
「掃射!」
 それらが一斉に放たれる。公園の外、道路にそれらが着弾し、機動隊員は散っていき道を開く。
「先生!」
「振り落とされないでよー!!」
 トラックは急加速し、敷地を出てドリフトしつつ車道へと出る。逃げ出した機動隊員の間を縫って、トラックが包囲網を突破していく。
『何やってる、そのトラックを止めるんだーッ!!』
 ヒステリックな男の声がスピーカーから聞こえ、ゆっくりと金網の張られた青いバスが動き出す。
「空に潜む数多の粒よ、素から晶となりて薄布となれ!!」
 舞は右手を高々と上げそう詠み上げれば、その特殊車両はおろか周囲百メートルを覆うように白い霧が立ち上った。
「行っけー!!」
 舞が拳を強く突き出せば、それに乗ってトラックはさらに加速を増し、霧の中に消えていった。
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