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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (21)
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「こんな感じで大丈夫ですか?」
「うん、あとは自分で回復できるから」
 トラックの運転席、後部の仮眠ベッドで俊雄がハンカチを継なぎ合わせた布を使い舞の肩を固定している。顔は腫れ服は傷だらけになり、満身創痍の状態だったが、自然と笑みがこぼれていた。
「リシュネは大丈夫?」
「うん、もう着いたから」
 リシュネは左腕を見せる。引きちぎれた上腕は綺麗に整復していた。
「でもあとでちゃんと検査するから、それまではあまり動かさないように」
 助手席に座る智子が、その膝の上に座るリシュネに注意する。その姿はまるで母親のようだった。
「で、どこ行けばいいんだ?」
 運転席に座るのは雅樹。穂香の声を聞いて、警察の目の届かない山の中を走っていた。
「そうだ、左さんはどこに逃げたんです? どうせこのあと落ち合うことになってるんでしょ」
 嫌味のような少年の言葉に、智子は黙り、リシュネはただ一言、答えた」
「逃げてなんか、いない」


「実にあなたらしいです、自分の部下よりもこれの方が大事とは」
「お前みたいな子供には高価すぎるおもちゃだか――ッ!」
 耳を突く甲高い乾いた音が、赤暗い部屋に響く。
 ファインダウト社最上階。分厚いコンクリートで覆われ、赤い緊急灯のみが点いている。一番奥には、透明な物質に封印された頭部。細面で中性的、肌の色は黒、頭髪は白。
「今更ミナクートなど必要ありません。AWの製造に必要な技術はもう揃いましたから」
 青年は冷めた目で銃口を向ける。
 銃口の先には、左洋一。
 洋一は撃ち抜かれた左手を押さえて悶絶していたが、上げた顔には笑顔があった。
「痛ぁ……ああ、君はAWくらいのおもちゃで満足できるんだったね」
「あなたは本当に……人を苛つかせることに関しては天才です、その点だけは褒めてあげますよ」
 青年は洋一の髪を掴み持ち上げ、銃口を頬に付ける。
「君に褒めてもらえても、まったく嬉しくないなぁ。だって」
 洋一は目をすぼめて言う。
「君に好かれようが嫌われようが、何とも思わないから」
 青年は洋一の口に銃口を捻込み、トリガーを引いた。くぐもった音が響き渡り、洋一の手が落ちた。
「……殺したのか」
「いえ、脳震盪を起こしただけです。こいつはゆっくりと」
 手を放せば、頬に穴の空いた洋一の頭がうなだれ崩れ落ちる。青年は立ち上がり振り向く。その表情を見た石和は、本当に、心底、その場から逃げ出したいと思った。
「ゆっくりと……ね……」
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