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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (19)
 意識が朦朧としている。
 それを自覚していることを、舞は心の底から感謝した。舞は、自らの脳に手を突っ込み、沈んだ意識を掴み上げ引っこ抜く、そうイメージする。
「――――――!!」
 頭を激痛が奔り、それが覚醒へと促し目が見開かれる。攻撃を感じ体を跳ねさせ、同時に今いた場所をジュラルミンの盾が叩く。舞は体を丸めて斜面を転がり、手を壁に当てて止めよろめきながらも立ち上がる。
 地下駐車場の出口、コンクリートの斜面、白飛びした背景、その前に立つ敵。銀色の盾を持つ機動隊員、恐らく少年の相手だった男、AW、盾からは鮮血が滴っている。
 それが、自分の頭から滴り落ちているものなのだと今気づく。生暖かくどろりとした匂い立つ赤は舞の意識を再びぐらつかせるが、その血が付いた両手で自分の頬を叩き意識をつなぎ止める。
「こんなところでっ!」
 そうだ、この向こうでトラックが止まっているはずだ、リシュネが、少年が、先生が、木村君が待っている――舞は左手を伸ばし、背後で結晶となっている氷を一部溶かし、手に呼び戻して剣と成し、両手でそれを構えた。
「うぉおおおおおお!!」
 駆ける舞。男は盾を片手で掴み、大きく振って舞へと叩き付ける。舞はそれを剣で受け流しつつ脇へと回り込む。
 二人は対峙。先に振りかぶったのは舞、だが男は慣性の法則が感じられない速さで盾を切り返し舞へと振る。
 舞は剣を離す。宙に舞う剣は形を変え盾となり、男の盾とかち合って止めた。
 驚く男、その懐に入る舞。舞は頬に付いた血を親指で弾く。飛んだ鮮血が集まり短刀となって舞の右手に形作られる。舞は男の脇腹に組み付き、赤い刃を背中へと叩き付けた。
 そうしたかった。そうしなければいけなかった。
 切っ先が触れた瞬間、皮膚の感触が手を止めた。その一瞬の迷いと、防弾ではなく防刃に特化したボディアーマーは、刃を弾き、貫かせなかった。
「え……あ”っ!!」
 水榴が瓦解し自由となった盾が舞を叩く、舞の体が押し退けられ距離が離れる。再度振られる盾。
 鈍い音。操り人形のように舞が跳ね飛び灰色の壁へと叩き付けられる。頬が腫れ、左肩が異常な位置まで落ち、その肩を抱いて震え舞は見上げる。
 貫けなかった刃、信じられなくなった自分、沸き立つ恐怖、心を満たしていたものが喪失感となって流れ出していく。やらなくちゃいけない、そんな思いすらも消え果てて、雅樹も、こんな気持ちだったのかなと、盾の薄い部分が自分の喉元へ突き立てられるのを見てそう思った。
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