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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (18)
 舞の血を被弾した男が俊雄に向う。男の右ストレートを俊雄は両手で受け止めようとするが、恐怖のあまり手を早く伸ばしてしまい、勢いを殺せず壁に叩き付けられる。
「ぐっ……がはっ!」
 直後にボディブロー、嗚咽する暇すらなく左掌底、顔面を捕まれ振り回される。
 その左腕に水の刃が突き立てられる。蛇口から吹き出た水流が刃となって伸びていたが、それは腕の途中で止まり斬り落としてはいなかった。
「また!?」
 自分の不甲斐なさに愚痴りながら、俊雄と男の間に割って入る。男の右腕が振り上げられるが、それを水流で絡め取り、さらに押し飛ばす。
「俊雄君は先生手伝って、車出させて!」
「う、うん!」
 俊雄が車と倒れ込む男達を縫って奥のトラックへと向かう。その先に、荷台へカプセルを入れようと悪戦苦闘する智子が見えた。
「う……」
「何だったんだ、今の……」
「い”!?」
 その視界の中で、男達がうめき声を上げて起きあがろうとする。その姿はさながらゾンビ映画のように見えた。
「早いって! ちょっとキミ!」
 振り向けば、少年はまだ盾を持った男と力比べを続けていた。両腕を上げて風を押しつける少年と、その少年に盾を振り降ろそうとする男が拮抗する姿は滑稽でさえあった。
「つ、使えない……!」
 クラクションと共にトラックが走り出し、機動隊員が這うように逃げていく。
「やっとね!」
 そう言うと舞は少年の方へと駆け、数丈の水流を曲げて少年の相手を横から叩く。
「君は荷台の上に! 止まったらリシュネに声掛けて!」
「は、はい!」
 脇に止めた車に側面をぶつけつつ駐車場をトラックが走っていく。俊雄は運転席に飛びつき、少年は風で体を浮かせ荷台にとりつく。
「足止め!」
 舞はそのトラックを駆けて追い、駐車場の出口で後ろ手に力を放つ。駐車場は白くきらめき、氷の結晶が縦横無尽に奔り格子となって機動隊を絡め取った。
 自分を覆う影を見た瞬間、意識が飛んだ。
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