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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (8)
 左回し蹴りを放った直後、遥は察知した。ただの肉塊であった雅樹から恐怖を視覚し禁線が遥の周りを駆けめぐった瞬間、その戦慄に恍惚の笑みを浮かべて体を震わせた。
「ああ……」
 思わず漏れる甘い吐息、それを打ち潰すように放たれた雅樹の左拳を両手で受け止めるが、蒼炎が左手を消し飛ばし赤炎が右手を跳ね除け、素手の拳が遥の頬を打ち抜いた。
「蒼――」
 雅樹はさらに右手で掴んでいた遥の左足に火を点そうとするが、止まっていたはずの左足が振り抜かれ、二台先の車上まで雅樹は蹴り飛ばされる。
 上げていた左足をゆっくりと下ろしながら、遥は左頬を愛でるように撫でる。
「なるほどね……あれは本来見えないものなのね。将来が期待できそう」
「よっ」
 雅樹は体を跳ね起こし、遥へと構える。
「第三ラウンド、いいよな?」
「あら、痴話喧嘩は終わったの?」
「え……って、なんでお前ここにいるんだよ!」
 雅樹は隣にいる見えない誰かに向かって声を上げた。
「いや、そりゃさっきのは助かったけどよ、でも……」
 雅樹はばつの悪そうな顔をし、頬を掻いて、言う。
「……悪かった」
 頭を下げ、上げた雅樹の顔は笑みで照れていた。
「さて問題です」
 遥は人差し指を立て、雅樹は再び構える。
「この渋滞、誰のせいでしょう」
 遥が足を踏み鳴らし、その中で縮こまる一家を怯えさせる。
「そりゃ、俺たちが……え?」
 雅樹は穂香に聞き直し、遥は猫の姿へと変わる。
「どうするかはあなた達が決めなさい」
 そう言い残して、銀色の猫は人混みの中へと消える。その人混みの向こう、電気店のテレビではニュースを放送していた。その映像には、見たことのあるビルが映っていた。
『――繰り返しお伝えいたします。警視庁は十八日未明に発生したと思われる長野県上下村での連続殺人事件に関しまして、ファインダウト株式会社の家宅捜索を行うと発表いたしました。これは、上下村にて使用された薬品がファインダウト株式会社によって輸入された可能性が高いためとのことです。映像にもありますように、現在は警視庁の機動隊員がファインダウト株式会社の本社を取り囲んでおり、非常に物々しい状況と――』
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