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風雅、舞い - 第三章 きもち (9)
 空が少し夕暮れへと移りつつあるその下で。
 人混みの中、俊雄と舞は目的もなく歩いていた。と言っても、舞の表情は明るかった。
 見た映画は「ハリウッド製超豪華SFXアクション」で、俊雄はその考えナシの内容に少し閉口していたが、それに反して舞はかなり面白かった様子で、それはそれで俊雄にはうれしかった。
「舞さん、ああいうの好きなんだ」
「ん、そうかもね。なんかさ、ああいうの見てると血ぃ沸き肉踊るって言うかぁ……あ、あの人」
「ん?」
 舞はいきなり人混みをかき分けて進んでいく。俊雄は誰のことを言ったのか判らないままただただ腕を引っ張られるままに歩く。
 ようやく舞の隣までたどり着いたとき、目の前にいた男に気づいて、その瞬間、嫌悪感がまず表れた。その男は、公園で雅樹とともに会いにいった男だった。粗雑な服装の中年男だが、俊雄はその目を見て、危険信号を感じていた。だから、舞を連れてその場から立ち去ろうとしたが。
「教えて欲しいことが、あるんです」
 その前に、舞は男へと話しかけていた。
「行きましょう舞さん」
 俊雄は舞の手を掴んで、半ば強引にその場を立ち去ろうとしたが、舞はそのスキンシップさえも気づかなかった。
「あれから何か判ったことがないかとか、それと……」
 うつむいて、一瞬黙って、そして、顔を上げた。男の目を見て、言った。
「雅樹のこと、教えて欲しいんです」
 舞さん……俊雄は斜め後ろから見える舞の真剣な眼差しを、悲しそうな目つきで見ていた。
「……あんた、朴の女か?」
「え? いえそういうわけじゃ」
「だったら、あいつには関わるんじゃない」
 男の口調は、強く、真実味に溢れていた。真剣な警告だった。
 舞がうつむいたのを見て、男は言葉を継いだ。
「あいつは、正真正銘の悪魔だ。今は、結構いいやつそうに見えるけどな」
「今は……?」
「朴の逆鱗に触れて消された男は数知れない、そういうことだ」
 舞の瞳孔が開いた。
「それって、朴さんが――その、殺したってことですか?」
 木村は、その言葉の現実味を実感できなかった。少し危なっかしいお兄さん、くらいにしか見えなかった。
 舞は、違った。
「その話、詳しく教えてください」
「おいおまえ、俺の話を」
「教えてください!!」
 舞は頭を下げて、そう言った。喧噪の中、俊雄は沈黙したまま、舞の背中を見続けていた。
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