「迷いのない世界へと導き給え!」
ディルトの第二撃がリシュネへと襲いかかる。しかし、その気流は中心を突き破られ、周りへと飛び散る。
「何!?」
「押し込め!!」
リシュネの両手から放たれた空気の塊が、ディルトのものを押しのけていく。そしてそれは、ディルトに躱す暇も与えず、直撃した。うめき声を上げながら、ディルトは木の葉のように舞い上がっていった。
それを確認したあと、リシュネはリラックスした姿勢で立ち、目を閉じた。小声でつぶやく言葉は、人のものではない。上から見下ろす女性や後ろに立つ少年が見守る中、体中の傷すべてが、同時に痕もなくふさがった。
バージョンの差なんて、ほとんどないな。少年は感じた。
リシュネの目が開かれる。その瞳は、獲物を狩る鷹のようだった。体を一瞬大きく振ると、撥水加工の施された傘のような肌を血がすべて滑り落ちた。宙に浮くディルトの落下点へと、リシュネは駆け出す。
「すべての元となるものよ、今ここに集いその大いなる力を示せ!」
<やめなさいリシュネ!!>
ディルトは途中からは自分から飛び、天井近くの壁を強く蹴って、弾丸のようにリシュネへと飛んでいった。その姿を睨み付けながら、リシュネは不敵に笑んだ。
「ディルト、死んじゃうかなぁ」
少年はいやらしく笑った。
<全回復にどれだけかかると思ってるのっ!>
マイクを掴んで叫ぶ女性は、最悪の事態を想定して青ざめながらも紅潮していた。
そんなことに意を介することなく、リシュネはディルトへと構えた。両足を強く踏ん張り、両手を高速で飛来するディルトへと向けて、呪文の詠唱を続けた。
「集いし力よ、我が示した道を進みその意を遂げよ!!」
一瞬。0.01秒。
少年は呪文が違うことに気づいてリシュネへと跳んだ。
ディルトはそのことに気づいていたが、それが意味することを理解するためには時間が僅かすぎた。
リシュネは、ちょっとやばかったかなと思った。
人間は、その時間では反応することができなかった。
リシュネの両手の先に、空間の歪みが生じる。その周りに光が生まれ、その光がディルトへと数十センチ進んだ時。
ディルトは驚愕と恐怖と怒りに駆られながら体を反らした。何が起こったのか、少なくともディルトには判らない理由によって、彼の右腕は消し飛んだ。
深呼吸をするように両腕を広げた状態で、リシュネは後ろへと吹っ飛んだ。床がささくれ立ち、そこに血痕の線が曳かれた時に、少年がリシュネを背中から押さえて止めた。
「無茶して……」
「練習にならないもの、本気出さなきゃ」
ディルトはきりもみを描いて床に激突し、転がった。上を見上げれば、窓越しに慌てふためいている様子が見えた。
「先生には悪いことしちゃったな。左さんがいるときにすれば良かったのに」
「そう?」
リシュネはさらりと答えた。
ディルトの第二撃がリシュネへと襲いかかる。しかし、その気流は中心を突き破られ、周りへと飛び散る。
「何!?」
「押し込め!!」
リシュネの両手から放たれた空気の塊が、ディルトのものを押しのけていく。そしてそれは、ディルトに躱す暇も与えず、直撃した。うめき声を上げながら、ディルトは木の葉のように舞い上がっていった。
それを確認したあと、リシュネはリラックスした姿勢で立ち、目を閉じた。小声でつぶやく言葉は、人のものではない。上から見下ろす女性や後ろに立つ少年が見守る中、体中の傷すべてが、同時に痕もなくふさがった。
バージョンの差なんて、ほとんどないな。少年は感じた。
リシュネの目が開かれる。その瞳は、獲物を狩る鷹のようだった。体を一瞬大きく振ると、撥水加工の施された傘のような肌を血がすべて滑り落ちた。宙に浮くディルトの落下点へと、リシュネは駆け出す。
「すべての元となるものよ、今ここに集いその大いなる力を示せ!」
<やめなさいリシュネ!!>
ディルトは途中からは自分から飛び、天井近くの壁を強く蹴って、弾丸のようにリシュネへと飛んでいった。その姿を睨み付けながら、リシュネは不敵に笑んだ。
「ディルト、死んじゃうかなぁ」
少年はいやらしく笑った。
<全回復にどれだけかかると思ってるのっ!>
マイクを掴んで叫ぶ女性は、最悪の事態を想定して青ざめながらも紅潮していた。
そんなことに意を介することなく、リシュネはディルトへと構えた。両足を強く踏ん張り、両手を高速で飛来するディルトへと向けて、呪文の詠唱を続けた。
「集いし力よ、我が示した道を進みその意を遂げよ!!」
一瞬。0.01秒。
少年は呪文が違うことに気づいてリシュネへと跳んだ。
ディルトはそのことに気づいていたが、それが意味することを理解するためには時間が僅かすぎた。
リシュネは、ちょっとやばかったかなと思った。
人間は、その時間では反応することができなかった。
リシュネの両手の先に、空間の歪みが生じる。その周りに光が生まれ、その光がディルトへと数十センチ進んだ時。
ディルトは驚愕と恐怖と怒りに駆られながら体を反らした。何が起こったのか、少なくともディルトには判らない理由によって、彼の右腕は消し飛んだ。
深呼吸をするように両腕を広げた状態で、リシュネは後ろへと吹っ飛んだ。床がささくれ立ち、そこに血痕の線が曳かれた時に、少年がリシュネを背中から押さえて止めた。
「無茶して……」
「練習にならないもの、本気出さなきゃ」
ディルトはきりもみを描いて床に激突し、転がった。上を見上げれば、窓越しに慌てふためいている様子が見えた。
「先生には悪いことしちゃったな。左さんがいるときにすれば良かったのに」
「そう?」
リシュネはさらりと答えた。