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風雅、舞い - 第十三章 二人の間 (9)
 薄暗い部屋。
 何もない無機質な部屋の中央で、デスクの上のモニターだけが明滅している。
 その前で、子供には大きすぎる本革の椅子に座って、フィオはマウスを操作していた。
 日本語で書かれた文章を、1ページ0.5秒の速さで読み進める。リズム良くクリックし、ページを進めていく。
 周りから見れば、到底「読んでいる」ようにはみえない。ページが進む速さを見れば、子供がパソコンで遊んでいるようにしか見えなかった。
 部屋のドアがスライドし、廊下の光と共にロベルトが入ってくる。
『おい、遊んでんじゃねーぞ』
 ロベルトが雑に頭を撫でると、フィオはおとなしく椅子を降りる。
『研究、大丈夫そう?』
『大丈夫かだって? まさか』
 自嘲気味に笑いつつ、椅子に座る。娘の温もりが心地よい。
『こんなガキに手を入れるくらいなら、やめちまった方がいいくらいだ』
 画面に俊雄の情報が表示される。
『この人じゃだめなの?』
『ああ、適性はないに等しいな。なんでこんな奴を俺に当てたんだ? 俺はゴミ箱じゃねぇぞ?』
 そう言いながらも、その表情は言葉ほど失望してはいないように見えた。
『…………』
 フィオは、もう一言、言いたいと思った。
 でも。
『…………?』
『遊んでくるね』
 と言って部屋を出る。
 父親の仕事に口を出さないことは、暗黙の了解になっていた。
「や」
 と、手を挙げて挨拶をしつつ、俊雄が通り過ぎる。
 ドキュメントにあった、被験者の一人。でも、優先順位は低い。それ以前に適性がない。本来なら被験者に選ばれるはずのない人間。
『…………』
 本当にそうだろうか。頭の中に書き写したドキュメントを読み返してみる。
 パパ達は、重要な点を見落としている。
『…………くす』
 ネズミを見つけた猫のように、フィオは笑みを浮かべた。
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