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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (12)
『――というわけで皆様、なにとぞお誘い合わせのうえお逃げくださるよう――』
「な、何これ!」
 舞達がウェイティングルームへと上がると、構内スピーカーから洋一の声が聞こえてきた。
「これって下には聞こえてないの!?」
「集中を途切らせないようにそうなってるんだと思う。音声はコントロールルームからしか……」
 そのコントロールルームには、誰もいなかった。
「僕達が降りたときにはちゃんとスタッフの人がいたよ!」
「私達を見捨て」
「黙って」
 リシュネが手を伸ばし会話を遮る。五人は走りつつ、放送に耳を傾ける。
『繰り返し、ファインダウト社の一番偉い人、左洋一がお伝えいたします。当ビルは警察の方達に包囲されてしまいました』
「!」
 リシュネは舌打ちをし、舞や俊雄は驚く。
『我が社は違法な組織と見なされてしまいましたゆえ、本日をもってスタッフの方々との契約を打ち切らせていただきます。残念ながら違約金のお支払いはできかねますのでご了承ください』
「そんなの駄目よ! APの維持には医療技術者が不可欠なのに!」
『身辺についても保証できませんが、当局が突入していない今であれば、投降することで身柄の保証はされると思われますので、皆様には正面出口よりお逃げくださるよう強くおすすめいたします』
「だそうよ」
「え? あ……」
 リシュネの言葉に、フィオは戸惑い、俊雄の方を向く。俊雄は舞の背を見ていた。
『もし自分の命よりもAPを大事にしたいという奇特な方がおられましたら、三井智子先生の指示の元行動してください。先生なら十分に信用できます』
「聞いたように、私は先生の所へ向かうから。もしここに残りたいと思うのなら、ついてきて」
 リシュネの言葉に、舞と少年はうなずく。俊雄は遅れてうなずくが、フィオは逡巡していた。
『もう一度言いますが、特に未練がない方は是非お逃げください。少なくとも義理や人情、同僚との付き合いでお残りにならないようお願いいたします。残業とは違うんだし、ね』
「無茶苦茶言ってる……」
『ちなみに僕は――もう逃げちゃいました♪』
「な!」
「嘘だ……」
「…………」
『だから皆さんも遠慮なくお逃げください。というわけで皆様、なにとぞ――』
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