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風雅、舞い - 第十六章 崩壊 (11)
「あれはどうにかならんのか」
 金網が張られた窓越しに、石和は空を見上げる。灰色い雲海の下を、報道ヘリが巡回している。
「これ以上の報道規制は……それに、リアルタイムでは放送していないはずですから……」
 スーツ姿の男が語尾を濁して答える。歳は三十代、デスクワーク専門といったいかにも場違いな男だった。頼もしくはなかったが、使いやすくはあった。
「さて、どう出るか」
 石和は再び外を見る。青い装甲バスから、十重二十重に立ち並ぶ機動隊員が見える。そしてその向こうに、ファインダウト社。
 ファインダウト社の社屋は山手線沿いの一等地にある。二十階建てビルの周りには公園のような敷地があり、地価に比べて敷地面積が広く、土地を無駄にしていた。ビルの高さも、周りのビル群に比べると低い。
 ファインダウト社の広い敷地を囲むように、機動隊と特殊車両が配置されている。ビルの周囲には隠れる場所がほとんどないため、人が出てくればすぐに分かる。だが、今のところ誰かが出てくる気配はなく、ガラス張りになっている一階には誰もいなかった。
 このビルに常駐している人間は五十人に満たない。その多くは様々な国から集められた研究員であり、結束は弱く、脅せばすぐに投降すると踏んでいた。
 問題は、APや泉を継ぐ者達がどのような態度に出るか、ということだった。左と信頼関係があるのであればやっかいなことになるかもしれないが、ある意味、投降されるよりはいいかもしれない。
 なにせ極悪犯だ、どうとでもなる。
『石和、対象を発見、準備完了した』
 トランシーバーからのうきうきした声に、石和は苦笑いする。
「はやるな、そっちは少数精鋭なんだ、陽動くらいさせてくれ」
『必要ありませんよ。今の私には誰であっても死体でしかありません』
 私もか?と聞きそうになって、堪えた。こいつは「ええ」と答えかねない。
「ではすみません、正門から突入して頂き、手はず通り順次――」
 と言いつつ男へと顔を向けると男は携帯電話に何かを語りながら、外を指さしていた。
「……早いな」
 ファインダウト社から、数十人の白衣が両手を挙げて出てきていた。
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